投稿者 admin 投稿日時: 2011/10/27 22:25:00
某駅前に7階建てのビルがある。そのビルには雑貨屋、病院、会社事務所など多種多様な業種が入居している。
そのビルの1階はエントランスになっているのだが、その中に自転車が2台停められていた。
ビルの壁面に駐輪禁止の貼り紙がある為か、その2台の自転車以外はビルのすぐ側にある駐輪場に並んでいた。
敷地内に自転車を停めてしまうと、通行の妨げにもなるので適切な処置だろう。
すると70才前後のじぃさんが、何事かブツブツと言いながら俺の前に現れた。
「またここに自転車停めてるわ」
「ここは停めたらあかん」
などとそこそこ大きな独り言を言いながら、停まっていた2台のうちの1台の自転車を持ち上げながら駐輪場へと移動させている。
この怒り具合いから察するに、このビルの管理人であろうと思われた。
「毎日誰かがここに停めよる」
毎日の事だからなのか、1台移動さして疲れたからなのかはわからないが、先程よりも語気が強くなっている。
確かに駐輪禁止の貼り紙の真下に停められているのだから、苛立つのも無理はない。
でも俺は思う。
じぃさん渾身の手書きの注意書は達筆で高貴さはあるが線が細い。
京都の湯豆腐屋の店看板じゃないんだから。
なぜ太い方で書かなかったんだろう。
そんな事を考えていると
カチッ
という聞き覚えのある音が聞こえてきた。
音のした方へ視線を移すと、じぃさんが残りの1台の自転車に跨がり、漕ぎ始めているではないか。
移動させるのじゃないのか!?
管理人じゃないの!?
マジかじじぃ!
俺は驚きと面白さを同時に味わいながら、ただ自転車で走り去るじじぃの背中を見続けていた。
この一連の流れはいったい何だったのだろう。
じぃさんによる意図的なボケなのか、ただの天然ボケなのかどっちなのだろう。
意図的だとしたらネタ振りからオチまで、間、台詞まわし、演技力、全てが完璧だった。
天然ボケだったとしてもあれだけピタリと嵌るとなると、これは賞賛に値する。
どちらにしろあのじぃさんは「笑いの神」予備軍に違いない。
近い将来、あのじぃさんが「笑いの神」として俺の前に舞い降りてきたら、俺は精一杯の力で「気持ち悪い」と言いながら振り払うだろう。